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2023.11.29
博物館DXと地域文化遺産シンポジウム開催!(シンポジウムは終了しました)
金沢大学資料館は,令和5年度文化庁文化芸術振興費補助金(Innovate MUSEUM事業)に採択され,
「地域博物館のネットワーク形成による石川観光文化資源促進事業」として,
石川県立自然史資料館,石川県西田幾多郎記念哲学館,公益財団法人石川県埋蔵文化財センター,羽咋市歴史民俗資料館,
野々市市ふるさと歴史館・野々市デジタル資料館と連携し,博物館資料のデジタル・データ化を行いました。
そしてこの度,構築したデータを「石川デジタルミュージアムネットワーク」として公開いたしました。
これを記念して,「博物館DXと地域文化遺産シンポジウム石川2023」を開催いたします。
シンポジウムでは本ネットワークやほかの先進的な取り組み事例についての講演や討論会を予定しております。
また,今年度は会場だけでなくオンライン配信も行います。
多くの方々のご参加をお待ちしております。
シンポジウム詳細
開催日 令和5年12月17日(日)
時 間 午後1時~午後5時
入場料 無料(要事前申込)
会 場 ハイアット セントリック金沢 2Fイベントスペース
※公共交通機関をご利用願います。
主 催 金沢大学資料館
後 援 石川県立自然史資料館,石川県西田幾多郎記念哲学館,公益財団法人石川県埋蔵文化財センター,
羽咋市歴史民俗資料館,野々市市教育委員会
チラシはこちら
申込方法
申込フォームに必要事項を入力し,送信してください。
申込フォームはこちら
講演概要
「博物館DXと地域文化遺産 ―東京大学総合研究博物館の場合」
西秋良宏 氏(東京大学総合研究博物館長,大学博物館等協議会長)
東京大学総合研究博物館は,博物館活動をとおして東京大学の教育研究に資することを目的とした施設である。1966年創設の資料館を1996年に改組して作られた。活動は自然史文化史等の学術標本収集,整理,研究,教育,公開発信など多岐にわたっているが,博物館そのものの研究も視野にいれてきた。本シンポジウムにかかわるものとしては,まずは,開館当初に重点をおいた「デジタル・ミュージアム」研究があげられる。インターネットで展示場や展示物を紹介する「ヴァーチャル・ミュージアム」ではない。博物館活動に,いかにデジタル技術(当時はITと呼んでいた)を活用できるかの研究である。一方,収蔵標本を大学博物館から持ち出して市中にミュージアム空間を作り出す「モバイル・ミュージアム」研究も2006年に開始している。これまで国内外100箇所以上で実践してきたが,近年,地方自治体との連携事業も目立ってきた。これら二つの実践経験を,現在,求められている博物館DXと地域文化遺産事業において大学博物館がどうあるべきかを考える参考例として紹介させていただきたい。
「石川県西田幾多郎記念哲学館の取り組み」
山名田沙智子 氏(石川県西田幾多郎記念哲学館 専門員(学芸員))
2002年に開館した石川県西田幾多郎記念哲学館は,日本を代表する哲学者・西田幾多郎の故郷「かほく市」が運営する公立博物館であり,西田の業績を紹介し関連資料の収集保存・公開を行っている。収蔵資料は1968年に開館した前身の西田記念館から引き継いでおり,2018年より収蔵品データベースを整備し公開している。また2015年に膨大な西田直筆の未公開ノート類が遺族から提供され,それらの修復・翻刻プロジェクトを立ち上げ,現在も翻刻作業を継続している。そのためノート類に特化したデジタルアーカイブ画面を追加し,研究に役立てるよう手書きノート画像を一頁ずつ閲覧できるようになっており,同時に毎年プロジェクトの成果を報告書にまとめて刊行している(一部は全集別巻として岩波書店より刊行済)。西田が学生時代の受講記録も含んだ未公開ノート類が見つかったことから,近代以降の日本国内における哲学の受容史としても貴重な資料となっている。当発表では,哲学分野での学術利用を目的とした資料の修復・翻刻・公開について、当館の事例を紹介したい。
「野々市デジタル資料館の取り組み」
腰地孝大 氏(野々市市教育委員会生涯学習課 主事)
「野々市デジタル資料館」は野々市市のホームページにリンクして設置されているデジタルミュージアムである。平成22年に「石川県御経塚遺跡出土品」が重要文化財に指定されたことを受け,広く周知するためのウェブサイトとして開設され,2カ年かけて整備された。コンテンツは野々市市の「国指定・市指定文化財」,「映像で見る野々市の民俗」,「写真資料」,「刊行図書」で構成され,特に「重要文化財石川県御経塚遺跡出土品」と野々市に守護所を構えた富樫氏に関する資料がサブページにまとめて公開されている。デジタルミュージアムとしては県内でも先駆的事例であり,小学校の調べ学習などで野々市の文化財を学ぶ際に活用されている。また英語や中国語,韓国語に対応するなど定期的に充実化を図っている。開設から10年がたち,スマートフォン・タブレット端末の普及,DXやGIGAスクール構想の推進など,インターネット閲覧環境が開設時から大きく変化している。社会の変化に柔軟に対応し,今後もより効果的な文化財の普及啓発に努めたい。
「地域資料の早期公開に資する「逐次公開」型運用モデルの確立:奥州市での実践例」
髙田良宏(金沢大学学術メディア創成センター 准教授)
オープンサイエンス(OS)の推進は我が国の方針であり,ビッグデータ,コレクションデータだけでなく,研究室に保存されている大量のデータや地域に点在している文書・絵図・民具などの歴史・民俗資料(地域資料)など多種多様かつ膨大な数の研究資料(ロングテールデータと呼ぶ)も対象であり,早期公開が急務である。従来から,ある資料について集中的に調査し,分類・整理・解釈し,きちんとしたメタデータを付した上で公開しようという動きはあった。しかし,現状は資金不足であったり人材不足等により調査が滞り全く公開されなかったり,研究者の占有や,つまみ食いにより一部のみの公開にとどまり,残りは公開されないなどの問題があった。今回我々は,地域資料に焦点をあて,それらの早期公開・活用を実現するための第一歩として,資料の存在をいち早く共有し,早期の公開につなげるため,資料の調査段階において可能な範囲で逐次公開を行う「逐次公開」型運用モデルを提案し実証を行っている。例えば,整理の途上,蔵→箱→束→目録→個々の公開に至る段階での公開である。逐次公開は,2021年より岩手県奥州市の協力により実証を進めている。当発表では「逐次公開」型運用モデルの概要と奥州市での実証の状況を報告する。
「石川デジタルミュージアムネットワークの取り組み」
松永篤知(金沢大学資料館 特任助教)
金沢大学資料館は,文化庁の令和5年度Innovate MUSEUM事業(ネットワークの形成による広域等課題対応支援事業)に「地域博物館のネットワーク形成による石川観光文化資源促進事業」を申請し,全国から採択された6事業のうちの一つに選ばれた。これは,当館を中核館として,石川県内にある他の5つの連携館とを結ぶデジタルアーカイブネットワークを形成する事業である。より具体的には,デジタル化技術(野々市市ふるさと歴史館・野々市デジタル資料館),自然(石川県立自然史資料館),哲学(石川県西田幾多郎記念哲学館),考古学(石川県埋蔵文化財センター),民俗(羽咋市歴史民俗資料館),教育(金沢大学資料館)という各地域博物館の専門性を活かした「石川デジタルミュージアムネットワーク」を構築し,それを地域文化資源の観光等への活用促進につなげるという計画である。各館の代表的な資料をスマートフォン対応のデジタルネットワーク上で広く公開して認知度を高めるとともに,外国人を含む多様な価値観を持った人々に実際に来館してもらうことを目指す。本講演では,石川デジタルミュージアムネットワークの構築とその具体的な内容について紹介する。